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女優・エッセイストとして活躍する傍ら、1980年代から35年以上にわたって韓国との友好親善に努めてきた黒田福美さん。韓国語も堪能、また『ソウルの達人』シリーズはじめ、韓国に関する著書も多い。
【写真】日本人は知らない…いま韓国で本当に起きている「ヤバすぎる現実」
長年、韓国の様々な事象を日本に紹介してきた黒田さんは、「親韓派」と思われているのだが、最近では「知韓派」と呼ばれることも多い。それは、彼女は韓国の良いところだけでなく、暗部とされることをも「報道」してきたからである。
2018年に発表した『それでも、私はあきらめない』(WAC)は、黒田さんが20余年に渡って取り組んできた「日本人として戦死した朝鮮人兵士たち」の慰霊碑建立実現までの顛末を綴った渾身のノンフィクションである。
慰霊碑建立の前に立ちはだかった韓国「反日」の病――。そこには「知韓派」女優が辿った壮絶な悲しみのドラマが描かれている。
そんな黒田さんは、現在の韓国をどう見ているのだろうか。
「遺憾である」の問題点
『韓方案内』の取材で 韓国の市場を訪ねた
「私は、現在の韓国を『是々非々』で捉えています。ようするに良いところもあるけれど悪いところもいっぱいある。特に最近では絶え間なく問題が起きていますね」
観艦式旭日旗問題(18年10月、済州島で開かれた国際観艦式で韓国政府が日本の海上自衛隊の旭日旗の自粛を求め、日本側が参加をボイコットした)から始まり、自衛隊哨戒機に対するレーダー照射問題、日韓合意破棄(慰安婦問題)、いわゆる徴用工に対する賠償請求などである。
「さらに日本が韓国に打ち出した貿易管理の厳格化の問題もあります。韓国側は猛反発しました。韓国では『輸出規制』と喧伝していますが、徴用工の話でこじれたために日本が制裁を加えたと自国民にPRしてるんです。実際には、フッ化水素などの武器転用素材の行方が不明であるために管理を強化したのに、韓国内では知らされていない。やっぱり、韓国国内のニュースなんかを見ていても自分たちに都合のいいように解釈して国民にPRしてしまうようなことがあるんですね」
のっけからなかなか手厳しい。
「ついこの間も、徴用工の問題で韓国側が『お互いに意見を出し合いましょう』と言ったら菅首相が同意したと報じられました。これは私の想像ですが、単なる相槌として『わかりました』と言ったのを、さも『同意した』かのように報道したのではないでしょうか。まあわざとなんでしょうけど、『そういうことは言っておりません』とすぐさま否定したわけですね」
黒田さんによると、日本政府がよく口にする「遺憾である」も誤解される言い回しだと言う。
「ネットでは『遺憾砲』という言葉も生まれ、『遺憾としか言えないのか』という非難の声さえあります。私は昔から、なぜ日韓の公式的な場面で『遺憾』という言葉がこれほど使われるのか不思議でならなかった。本来『残念』という意味ですが、日本では堅苦しい場面で使われるのに比べて、韓国では重みがまったく違う。例えば、若い女性でも『あら残念』という感じで日常的に使う言葉なんです。同じ『遺憾』という漢字語があるために、通訳はそのまま訳すしかありません。
彼らは国民性として、言葉を額面通りにしか受け取らないところがあります。日本人が怒りを表現しても『たいして怒っていない』と感じるのです。だから、怒りを伝えるときは『大変憤りを感じている』とか120%くらいに表現して、ちょうど100%の意味を汲み取ってくれると思った方がいいでしょう」
連続性のない政治と行政
photo by gettyimages
文在寅大統領の任期は残り1年4ヶ月となった。黒田さんは、そもそも韓国の大統領の5年任期に問題があると言う。
「韓国は前政権を否定して自分たちを浮上させることの繰り返しなんですね。そして5年間だけちゃんとできればいい。だから将来のことを決めるにしても、例えばオリンピックを誘致する場合でも、その時の経済状況でできるかどうかよりも、それを勝ち取ってくることの方が国民に対してのアピールになる。後は野となれ山となれなんですね。それは国政だけでなく行政も同じなんです。
韓国人の『甘えの構造』というか、成熟していないまま国家運営をやりはじめちゃったから、みんな自分の5年間のことしか考えていない。だから行き当たりばったりでアピールするだけになってしまうんです」
黒田さんには忘れられないエピソードがあった。
「知り合いの韓国人留学生の話。その人は奨学金をもらって日本に留学しに来ていたんだけど、その奨学金が止まったと言うんですよ。『大丈夫なの? 』と聞くと、『トップが変わったのかな』と普通に言う。政治だけでなくあらゆるものがあっさりと影響を受けてしまう。5年の任期だから、4年を過ぎると、次はどういう政権になるのかとなって、現政権が力を失い始めるんですね。
で、もし次が逆転して保守派が政権を取るとしたら、今は静かにしといて保守的な方についたらいいのか、革新派につけばいいのか、様子見が始まる。日本だったら、右派になろうと左派になろうと、国家が連続性を持てるように『引継ぎ』が行われますよね。ところが韓国では『後は知らない』なんですよ。政治の場面だけでなく、世の中全体がそのために停滞してしまうんです」
その背景には、韓国人特有のメンタリティがあると言う。
「日本人は人に迷惑をかけちゃいけない、というのが基本ですよね。一方の韓国は、人に迷惑をかける文化なんですよ。持ちつ持たれつの文化と言ってもいい。家族に対してでも、友人たちに対してでもお金がない時は『貸してくれ』と言って、それで『ごめんなさい、返せません』というのがまかり通っちゃう。韓国人にとって、言葉は相手を自分の思う通りに動かす手段なので、自分の言葉に責任があるという意識が薄い。もしも実現できなかったら、彼らは平然と『理解してください』と言いますよ」
それにしても、前大統領の朴槿恵といい、韓国の歴代大統領のほとんどが懲役刑だったり、自殺に追い込まれたりするのはなぜか。
「それは、権力の集中と、さっき言った『甘えの構造』があるからなんですね。大統領のような偉い人になると、わぁーといろんな意味での『むしりあい』が起こるんですね。それをやらないわけにはいかない。清廉潔白であるのが非常に難しいお国柄なんですね」
「監視社会」の名残りの「同調圧力」
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黒田さんは2008年、韓国・慶尚南道の泗川市に旧日本軍の太平洋戦争犠牲者の慰霊碑建立を目指し、やっとのことで実現にたどり着いた。しかし、除幕式の前日に市から突然式典の中止を求められたのだ。その後、慰霊碑も破壊されてしまった。
「当時の朝鮮人日本兵は日本の戦争に協力した親日派だ」と主張する反日団体の圧力があったためだった。
「市は親日のレッテルを張られるわけにはいかなかったのでしょう。慰霊碑も市に壊されてしまいました。日本人の私としてはまさか行政に裏切られるとは思ってもみませんでした。しかし、そういうことがままあるのが韓国なんです」
さらに目に見えない「同調圧力」が拍車をかける。
「その『同調圧力』が生まれた原因を私はこう考えています。朴正煕(パク・チョンヒ62~79大統領)までは軍事政権でした。その当時は、北に対して『打倒共産主義』を掲げていましたから、国民に対する監視がすごかった。だから、国民が監視されていた時代の記憶が残っている世の中と言ったらいいのかな。私たちくらいの世代だったら、家に盗聴器が仕掛けられているかもしれない、と真面目に思ってしまう。で、電車に乗ると『スパイ申告』のポスターがある。『怪しい人を見たら申告しましょう』と伝えてるんですね。だから、『監視社会』の名残りとして『同調圧力』が強くなってしまった。
彼らの中ではコロナ感染のようなことがあれば、追跡調査してこの人はどこに立ち寄ったかすぐに調べられる。人権やプライバシーが守られないような監視社会なんです。本当は心の中では『日本の言ってることは正しい』と思っていたとしても、社会的にそれを言うと恐ろしいことになる。実際それを言って撲殺された老人もいるんです。つまり反日は『伝家の宝刀』。これに逆らえば韓国社会では抹殺されてしまう。
ようするに心でどう思っていようが、そのことを自分が顔出しして語れないと言う国家なんです」
タクシー運転手の本音
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黒田さんは、韓国でタクシーに乗るたびに運転手たちに話を聞き、本音を聞き出す。
「同調圧力の強い社会ではなかなか本音は出てきません。ところがタクシーのように、2人だけの空間では意外に本音が聞けるんです。だから、比較的長距離で喋れるなと思った時は、運転手さんに探りを入れるんです。『今の政権はどうですかね? 』とかカマかけたりして話を聞く。そういう時に、意外に本音が出てくるんです」
運転手にとって黒田さんは単なる「一見の客」に過ぎない。どこかで盗聴されているわけでもなく、何を話しても、降ろしてしまえば終わり。だから警戒することもないのだろう。
「ある時、10人くらいの運転手さんにじっくり話を聞いたんだけど、文在寅の肩を持つのが2割、日本の肩を持つのがやはり2割かな。それ以外というのは『まあ、どっちもどっちだ』というのはあるんだけど、何となく手応えとして韓国人がそういう時は、日本に対する融和とまではいかないけど、『言ってることもわかる』というのが本音なんですね。
私が『韓国ではこのように報道されているけれど、真相は違うんですよ』と説明すると『えー、そうなんですか。知らなかった』と熱心に耳を傾ける人も多い。韓国人の政治家に対する不信はかなり根深いものがあります。
また、年配の人なんかは(日本統治時代に)『日本のやったことは残念なことではあったけれども、韓国としてはあった方がいい試練ではあった』みたいなことを言う人もいます。そこまで言うか、と普通ならば公的な場所では言わないだろうなということが聞こえてきて、ちょっとびっくりするんですね」
変わりつつある韓国
2019年、韓国と日本で出版されたある本が話題を集めた。それは『反日種族主義』。副題に「大韓民国危機の根源」とある。韓国で11万部、日本で40万部のベストセラーとなった。
韓国に危機感を持つ韓国の学者やジャーナリストが結集し、慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題などを実証的な歴史研究に基づいて論証した書である。
黒田さんもこの本には驚いたと言う。
「あれは前代未聞でした。韓国ってあんまり本が売れない国なんですが、それで11万部というのはすごいですよ。
著者は主に研究者です。文献に当たって事実を解き明かしているので、それに対して論理的な反論は誰もできない。著者たちは『じゃあ、議論をしましょう』と言うのですが、応じる人は誰もいないのです。
とはいえ、著者の先生方が無条件に親日派ということでもない。あくまで、文献などの証拠からの考察なのです」
黒田さんは、『反日種族主義』のような反動的なことは起きると思っていたと言う。
「自分の政権に都合の良いような報道やアナウンスばかりをしていると、いつかきっと気づき始めると思ってました。これだけみんな大学出て教育レベルの高い国民が、実は操作をされていたんだと気づいた時の怒りは、当然政権に向かってしまいますよね。
だから、今の政権もだんだん揺らいできてるんだと思います。
今やインターネットの世の中です。情報もただテレビや新聞だけじゃなくて、ネット上で韓国人が『現政権がいかにおかしいか』と発言しているし、日本に向けて韓国の矛盾を日本語で語っている人もいます。
いろんな角度から情報が入ってくるようになって、昔だったら統制できたものができなくなってきています」
「自分が信じたいことを信じる」のが韓国の国民性。しかし、『反日種族主義』のようなものが一石を投じ、さらにネットの普及によって、より一層変化の兆しが見られるようになったのだ。
「自分の聞きたいことしか聞かない人たちだから、日本がいくら『本当はこうなんですよ』と言ったところで、日本人の話など聞く耳を持たない。だから、『これじゃダメなんじゃないか。正しく知ろうよ』という『旗』は、韓国人自身が掲げて推進していくしか道はない。つまり自浄努力に期待するしかないと思います」
韓国を諦めない
韓国・龍仁市にある法輪寺でご住職と。慰霊碑は現在横たえられている
それにしても、慰霊碑の事件で散々韓国人に裏切られたのに、まだ黒田さんは韓国を諦めてはいない。それは一体なぜなのか。
「それは破壊された慰霊碑を再建してくださった韓国の法輪寺ご住職(尼僧)に出会えたからかもしれません。お蔭様でその後12年間、ソウル郊外のお寺で法要を続けています。ご住職に会っていなかったら、私は韓国との縁をつないでいけなかったかもしれません。彼女が、『本来我々がやらなければならなかったのに、黒田さんに出会って自分たちがおざなりにしていたことを悟りました』と言っていただき、涙がこぼれました。本当にその言葉に救われたんです。
いろんなことがありましたが、それでも韓国の人たちは情の深いチャーミングな人たち。やっぱり、日韓を繋ぐことは私の使命でもあり、自己実現の喜びでもあると感じています。だからこれからもいろいろなアプローチを続けてゆきたい」
2011年5月、黒田さんは韓国政府から「『韓国の歴史や文化』の情報を日本人に伝え続けている」として勲章を授与されている。
反日を建前にしている一方で、黒田さんの活動に感謝せざるを得ない韓国政府の本音が透けて見えるようにも思える。
黒田さんは、近い将来、韓国情報専門のYouTubeチャンネルの開設も視野に入れていると言う。
「韓国に上陸さえできれば、どこの地方に行っても何とかなる。だって、勲章もらっているから(笑)。やりたかったのはこれだ! と今からウキウキしてるんですよ」
そう言うと彼女はとびっきりの笑顔を見せてくれたのだった。
小泉 カツミ(ノンフィクションライター)
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最終更新:2/18(木) 10:06現代ビジネス(c) KODANSHA
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