
10数年前、あるレコード会社のプロデューサーに取材する機会を得た。そのとき彼がポロッとこぼした一言は、いまでも忘れられない。
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「日本で男性アイドルをやるのは難しい……」
その背景にあるのは、もちろんジャニーズ事務所の存在だ。当時は、NEWSや関ジャニ∞、KAT-TUNがデビューして間もない頃。90年代中期以降のSMAPと嵐の大ブレイクを受け、ジャニーズはさらに勢いを増していた。(全2回の1回目/ 後編に続く )
ジャニーズの“一強”が崩れ始めた
他のプロダクションも男性グループを送り出してはいた。EXILE(2001年~)のような成功例もあるが、それは優男イメージの強いジャニーズとは棲み分けていたからだ。ライジングプロダクションのDA PUMP(1997年~)やw-inds.(2001年~)は、ヒットしたものの国内での活動には限界があり、w-inds.は海外に活路を求めた。
それが、日本の「男性アイドルの難しさ」──だった。
だが、それはすでに過去の話だ。現在、ジャニーズに対する多くのコンペティターが参入することで、日本の男性アイドルシーンには大きな変化が訪れている。
JO1を仕掛けた黒船「CJ ENM」
現在、ジャニーズの競合となる男性アイドルグループが続々と生まれている。
その代表格は、昨年3月にデビューしたJO1だ。11人組のこのグループは、101人の参加者(練習生)がデビューをかけて競い合うオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』(通称『日プ』)から生まれた。仕掛けたのは、韓国の大手制作プロダクション・CJ ENMと吉本興業だ。両社によって設立されたLAPONEエンタテインメントがJO1を運営している(資本比率はCJ70%、吉本30%)。つまり、K-POPと日本の大手芸能プロダクションが手を組んだのである。
CJ ENMは、韓国最大手の総合コンテンツプロダクションだ。映画『パラサイト』をはじめ、傘下のスタジオドラゴンは『愛の不時着』や『シグナル』などを生んできた。『パラサイト』がアカデミー作品賞を受賞し、『愛の不時着』が日本で大人気なように、そのコンテンツは次々とグローバルヒットに結びついている。
JO1もこのグローバル展開に含まれる存在だ。それは、K-POP得意のローカライズ戦略の最新形であるローカルプロダクション(現地制作)と言える。CJ ENMは音楽でも韓国版MTV・Mnetを中心に、多くのコンテンツを生み出してきた。
日本進出では、AKB48グループが参加した『PRODUCE 48』で日韓混成のガールズグループ・IZ*ONEを大成功させ、その次に送り出したのがJO1だった。
JO1は、新型コロナウイルス感染拡大のなかでのデビューとなり、その後もライブが行えないなど十分な活動とは言えないが、昨年は ビルボードジャパンの年間アーティスト100 で18位にランクインしている。ジャニーズ勢と比較すると、11位のSixTONESや12位のSnow Manには劣るが、20位のKing & Princeを上回っている。音楽的にはすでにそれほどの人気だ。
元ジャニーズvs.現ジャニーズという構図
『PRODUCE 101 JAPAN』からは、JO1が生まれただけでなく、脱落した練習生の多くも他グループでデビューしている。4人組のOWVや7人組のORβITなど、短期間で多くのグループが誕生した。さらに、現在放送されている『日プ2』からも新たなグループが6月に生まれる予定だ。
注目すべきは、これらのグループに元ジャニーズJr.の存在が散見されることだ。つまり、元ジャニーズが現ジャニーズの競合となる状況が多く生じている。見方を変えれば、ジャニーズが他の男性グループの人材供給源となっているとも言える。
その代表的な例は、JO1の白岩瑠姫やOWVの浦野秀太だ。そして、現在放送されている『日プ2』にも、元ジャニーズJr.の田島将吾とヴァサイェガ光、篠原瑞希の姿がある。
田島とヴァサイェガはジャニーズJr.時代も人気メンバーだったが、紆余曲折を経て今回番組に挑戦した。とくに韓国の芸能プロダクションの練習生でもあった田島は、ダンス、ボーカルともに初回から高い実力を見せ、もっともデビューに近い場所にいる。
7人全員が元ジャニーズJr.の「7ORDER」
また、ジャニーズJr.の7人組・Love-tuneは、2018年から19年にかけて全員が退所した後、独自に新グループ・7ORDERを結成。昨年11月にはメジャーデビューも果たした。そのパフォーマンスの質は、K-POPではなくジャニーズに近い。
現在も約200人いると見られるジャニーズJr.は、メジャーデビューしていない若手たちのことだ。しかし、なかには20代後半にさしかかった者もいる。こうした状況もあって、今年1月には、2023年から原則としてJr.の活動を満22歳までとするとジャニーズ事務所は発表した。
その理由は、「多様な未来を確保・尊重するため」とされているが、放出後の活動制限をしない姿勢を強調したものでもあり、事業のスリム化を目指したリストラ策でもあるだろう。よって今後、Ex-ジャニーズの活躍はさらに増える可能性が高い。
「THE FIRST」を手掛けるSKY-HIの危機感
K-POP発のオーディション番組がヒットを生むなか、最近は日本独自の企画も始まった。現在注目されているのは、AAAの日高光啓が個人活動のSKY-HIとして手がけているオーディション「THE FIRST」だ。その経過は、4月からHuluと日本テレビの情報番組『スッキリ』で随時公開されている。
この企画は、SKY-HIが立ち上げた新会社・BMSGによるものだ。同社のホームページでは、現在の日本のエンタテインメント状況に対する強い危機感が示されている。
〈 例えば、歌やダンスといった芸能活動のクオリティよりも愛嬌や対応に需要が傾いた際に、本人がそれを享受してしまえば、需要はより高まる。いつしか芸能というものはそういうものだと認識が進んでいってしまい、接客サービス業と化す。(略)
ただ事実、楽曲やパフォーマンスのクオリティはK-POPに求めるようになる。若い才能は、次々と活躍の場を韓国に移している。近年では、彼等はメッセージやスタンスまで持ち合わせてきた。「日本は日本、海外は海外」と切り捨てていい話ではない。だって、今のまま進めば、10年後の日本から生まれるPOPS…特にダンス&ボーカルは、どのような形になっていくだろうか。――BMSGオフィシャルページ「 WHAT'S "BMSG" 」〉
そこで指摘されている「愛嬌や対応」や「接客サービス業」とは、日本のアイドルでは男女ともに見られるアプローチだ。AKB48や坂道グループなどの握手会だけでなく、バラエティなどの冠番組でパーソナリティ(人格)を売りにするジャニーズタレントの方法論も指していると考えられる(SKY-HI自身も元ジャニーズJr.だ)。
日本芸能界のシステムが「アイドル音楽はこの程度でいい」といった固定観念を生み、音楽のアップデートを疎かにしてきた。
K-POPとJ-POPの“決定的な違い”
対してK-POPは、ダンスやボーカル、ラップなどのパフォーマンスに重点を置いてきた。日本のアイドルのようにパーソナリティを売るバラエティ企画もあるが、それは副次的なものだ。K-POPはあくまでも「音楽をちゃんとやるアイドル」を目指してきた。
長いアイドルの歴史がある日本からは、少し前まではそうしたK-POPの姿勢が愚直なものに見えていたかもしれない。J-POPアーティストは、海外挑戦の失敗を繰り返してきたからだ。
しかしK-POPは約20年もの間、トライ&エラーを繰り返しながら、結果的にPSYやBTS、BLACKPINKなどのグローバルブレイクを生み出してきた。
人材の“韓国流出”はもう始まっている
こうした状況が見えているからこそSKY-HIは焦り、「THE FIRST」をスタートさせたのだった。「若い才能は、次々と活躍の場を韓国に移している」とSKY-HIが述べるように、実際に現在K-POPで活動している日本出身者は30名以上にものぼる(松谷創一郎「 “K-POP日本版”が意味すること 」2020年9月28日)。
デビューしていない練習生は、おそらくその10~100倍はいるはずだ。つまり、すでに意欲のある多くの人材が韓国に流出している。SKY-HIの危機感は、決して大げさではない。
10数年前の「男性アイドルの難しさ」は、たしかに過去のものとなった。男性グループで国内マーケットに参入する障壁は、格段に下がった。
しかし、いまはそれとは別種の「男性アイドルの難しさ」が生じている。日本でもK-POPが基準とされる現在は、それと比肩する水準のパフォーマンスが必要とされる。
「男性アイドルの難しさ」は、音楽そのものとなったのである。
( 後編に続く )
なぜジャニーズは海外市場を掴めない? BTSとの比較で分かった“日韓アイドル”の圧倒的格差 へ続く
松谷 創一郎
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